第3話

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 少年がリビングに足を踏み入れ、テレビの近くにあるソファに腰を下ろして言った。私は手にしていた荷物をキッチンに運び、冷蔵庫の中にビールを入れる。そして、素っ気なく訊いた。 「好き嫌いはあるか?」  あると言われても困る。どうせ、ここにあるものでしか食事は出せない。だから、一応、参考までに訊いただけだ。 「いや、ない」  少年はそう言いながらテレビをつける。途端、明るい笑い声がテレビの中からこぼれだした。私はテレビを見つめている少年の背中を見つめ、小さなため息をつく。それから、食事を作るためにキッチンに向き直る。  炊飯器にはタイマーがかかっていて、一人分の飯がそろそろ炊きあがる予定になっている。仕方なく、私はそれでチャーハンを作ろうと思い立つ。具をたくさん入れてしまえば、量も増える。  それと、冷蔵庫の中には焼きそばの麺が入っていたはずだ。私は手際よく料理を済ませ、少年の前に皿を置く。そして、彼が食事を始めてから自分も座る。 「人違いではないと言ったな」  私は食事の合間に彼に訊いた。彼はテレビを見ながら焼きそばをつつき、ときどきくすくすと笑っている。しかし、テレビから目をそらして私を見やり、わずかに真面目そうな表情で頷いた。 「そうだよ。……あの時はありがとう、お兄さん」 「あの時と言われても」  私が眉をひそめていると、彼は薄く笑って皿をテーブルの上に置いた。そして、そのままにじり寄るようにして私のほうへ近寄ってくる。何となく反射的に、彼から遠ざかろうと身を引いたところで、彼の手が私の首筋に伸びた。冷たい指先が私の首に触れて。 「あの時、やりすぎちゃったかなって思ったんだよね。俺、制御できなかったし、お兄さんに負担をかけちゃったかな、って」 「何の」  話、と言いかけて。  少年が突然、私の首筋に顔を寄せた。慌ててそれを押しのけようとしたものの、それはあっという間だったのだ。  ちくりとした感触と、忘れていた快感。 「……あ」  私の指先が震えた。必死に少年を押しのけようとしていた腕から力が抜けた。自分が意図しないままに、息が上がる。その場に倒れ込みたいという欲求に負けそうになった。  力が入らない。
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