第21話

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「解ってないのはお前だ」  そして、もう一度久住の身体が大きな鈍い音と一緒に跳ねた。天井近くの壁に久住は一度ぶち当たり、その身体が床へと落ちる。黒崎の身体は微動だにしないままだ。  人間ならば死んでいるとしか思えない衝撃。 「お前が人間を憎むのも蔑むのもどうでもいい。俺の邪魔さえしなければ、な。しかし、以前から訊いてみたかった。お前は人間のことを害虫だと言う。それでは、お前が仲間にしたあの男は何なんだ? あれも元は人間だろう。お前にとって、乾という男は」 「彼は関係ない!」 「関係ない? じゃあ、乾が死んでも別にどうでもいいということだな?」 「関係ないっ!」  そこで、久住の声がわずかに掠れた。  それを見た黒崎の唇に嘲笑が浮かんだ。 「そうか、あれは『餌』にするか」 「黒崎っ!」  どうしよう。  私は訳も解らず、切羽詰まっているこの場の空気からただ後退る。そして、慌てて玄関の鍵を開けようとした。早く逃げなくてはいけないと解っていた。  潤や――それに真治や七瀬さんのこと、色々な人のことを思い出しながら。とにかく、逃げなくては、と。  しかし。  尋常ではない何かの気配を感じて振り返った瞬間、目の前に現れたのは。 「久住!」  そう叫んだ黒崎の声。  目の前にある久住の歪んだ笑顔。  そして、「大介っ!」という聞き覚えのある潤の叫び声と。視界の隅に見えた彼ら――潤や真治、七瀬さんの存在に安堵するよりも早く、私は『それ』を見下ろしていた。  凄まじいまでの圧迫感と。  赤。  朱。  血。 「な」  声を上げようとした瞬間、目の前にいる久住が狂ったような笑い声を上げて。  返り血を浴びた。  それは、私の血だった。  久住の腕が私の腹の中へとめり込んでいて、それが抜かれた瞬間に飛び散った血が視界を紅く染めていた。 「大介っ! だいすけっ!!」  背後から潤に抱きしめられて、私はただ小さく息を吐いた。  何もかもが赤く見える。
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