第22話

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「だい、すけ」  背後から抱き留められた後、私の身体はゆっくりと地面へと下ろされようとしていた。自然と視線が上がり、潤の泣きそうな顔が目に入る。  震える彼の唇。  そして、恐怖の色が浮かんだ瞳。  変な感じがした。  今にも死にそうなのは、潤の方だと思ったからだ。  ぼんやりとかすむ視界と、そして聞こえてきた黒崎の声。そちらを見ようとしたわけでなかった。自然と頭が垂れていき、偶然入ってきた光景だった。 「俺が言いたいことが解るか?」  黒崎はいつの間にか、久住の身体を床に押しつけていた。倒れた久住の喉仏の辺りに、ぐい、と自分の足を乗せて。  その双眸は紅く染まっていた。口元には笑みなどなかった。 「俺がお前にいつも何て言っているか、よく解ってるはずだ。俺の命令には逆らうな、俺の命令ではないことはするな、だ」 「く、ろ……」  久住の目が苦痛に歪む。そして、必死に起き上がろうとする。  しかし、黒崎の足にさらに力が加えられ、骨が軋むような音が聞こえた。久住の身体が強ばり、わずかにその瞳に不安が見えた。 「なぜ、こんなことをした? 何が狙いだ?」 「……狙い、など」 「じゃあ」 「た、だ」  久住が掠れた声を上げる。それは小さな悲鳴にも似ていた。呼吸なのか何なのか解らない、そんな空気が久住の喉から漏れ、やがて彼は狂ったような笑みを浮かべながら叫んだ。 「人間の、くせに。むかつくんですよ! 提供者ってだけで、ただそれだけで大切にされるなんて、そんなのはっ!」 「……大切にしてやったろ? お前のことだって、俺はな」 「でも、あなたはっ」 「面倒くせえ」  黒崎は大きくため息をつくと、頭を掻きながらこちらの方へ視線を投げた。そこにいたのは七瀬さんだったと思う。 「俺の監督不行届だ。もう、どうにもならん。お手上げだよ」  黒崎は神妙な顔つきで続けた。「秋葉からは手を引く。本当はあんたのところの血が欲しかったんだがな、それどころじゃない」 「勝手なことを言わないで」  七瀬さんの低い声が飛んだ。「あなたたちが何をやったのか、忘れろというの? うちの弟にも怪我をさせて、その上、蓮川さんにまで……」 「詫びの言葉すら見つからない」  黒崎は目を細めて、今度は私を見た、と思った。
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