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気が遠くなる。
指先が冷たい。
ただ、触れている潤の体温だけが温かい。
「大介」
潤が私の頬を軽く叩いている。「駄目だ、目を開いて」
それは無理だ、と思った。
何だろう、こんなことばかりを繰り返している。
病気で、潤に血を飲まれて、死にそうになって病院に運ばれて。
でもおそらく、今回は駄目なのかも知れないと感じた。本当に死んでしまうのだ、と感じた。死ぬのは怖い。死にたくはない。
でも、意識が途切れそうになる。
不安でたまらない。
死にたくない。
死にたくなどない。
目の前が暗い。
凄まじいまでの孤独感。
「厭だっ、大介!」
急に、腹に激痛にも似た熱が弾けた。
凄まじい悲鳴が聞こえた。しかしそれは私の喉から発せられたものだった。遠のきかけた意識が一気に覚醒する。
閉じかけていた自分の眼が見開いている。そして、潤が泣きながら私を見下ろしているのが解った。熱い滴が私の頬に落ちてくる。彼の涙。
そして、潤の唇が血で濡れているのも見えた。
彼はいつの間にか、自分自身の手首に噛み付き、食いちぎっていたみたいだった。ぼたぼたと落ちてくる彼の血が私に降りかかってくる。
何をしてるんだ?
そう問いかけたつもりが声にもならない。
勢いよく流れ出した潤の血は、私の腹の傷口の上に流れ込もうとしていた。そして、それによって熱湯でもかけられたような熱さが私を襲っていたようだった。
「どうしよう」
潤が泣きながら言う。「傷口、塞がらない」
「潤様」
真治が潤の隣に膝をついて、何か言おうとしている。でも、その表情が苦渋に歪んだ。
助からないってことか。
私は必死に声を上げようとした。しかし、腹に力が入らず、何も言えなかった。
「信じてくれなくてもいい」
血で濡れた彼の手が私の頬に当てられる。その指が震えている。
「俺、あんたのことが好き。愛してる。死んで欲しくない」
信じるも信じないも、そればっかりじゃないか、と私はつい笑ってしまった。
あれだけ熱烈に色々言っておいて、今さら信じてくれなくてもいい、とは。
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