第22話

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 男性同士の恋愛など今でもよく解らない。何しろ、我々の出会いは最悪だった。  絶対に、私は彼のことを受け入れることはないだろうと思っていた。本当に、心の底から迷惑でしかないと思っていた。  それなのに。 「潤」  私はかろうじて声を上げた。途端、喉の奥から熱いものがこみ上げてきて咳き込んでしまう。口からあふれ出したのは大量の血。苦しくてえづきそうになりながらも、私は続ける。少しだけ手を上げて、彼の手首に触れながら。 「……私も、嫌いじゃない」  いや、こんな時にこういう台詞は駄目だろう。  私はこれが最後なのだから、と暗い絶望の中で囁いた。 「少しは、好きなのかも知れない」  途端、潤が大きく首を振った。泣きながら私を抱き寄せ、震える声で言う。 「契約しよう。このままじゃ大介、死んでしまう。だから、俺のためじゃなくていい、あんたが生きるために契約して、吸血鬼になってくれ」 「潤」  七瀬さんが少しだけ慌てたように声を上げた。  でも、潤は断固とした口調で続ける。 「俺が責任を取る。秋葉のしきたりには死ぬまで逆らわない。姉貴の言うとおりに何でもする。だから、大介を仲間にさせて欲しい」  わずかな間があった。  私は頭が働いておらず、ただぼんやりと潤の真剣な目を見つめていた。  そして、七瀬さんが頭を掻いてため息をこぼしているのも解った。 「お嬢様」  真治が緊張した様子で立ち上がり、七瀬さんのそばに寄った。「この騒ぎで人間が来ます。この場を封鎖しなくては」 「頼むわ」  疲れたように手を振って、七瀬さんは真治を見ようともしなかった。しかし、真治の姿が一瞬にしてこの場から消え失せた。しかしその直前、少しだけ私に苦しげな視線を投げたようだった。 「お互いの同意がない限り、契約はできない」  七瀬さんがやがてそう言って、私のそばに歩み寄る。私を見下ろしながら、わずかに困ったように微笑んで言う。 「同意してくれるかしら?」  そうだな、生きるためには。  頷かなくてはいけない。  しかし。  どうしても、頷くことができなかった。
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