第22話

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 少しだけ肩をすくめた彼は、そのまま忌々しげな視線を足元に転がったままの久住に向けた。そして、その直後に弾けた奇妙な光。  何が起きたのかは解らないが、久住が低く悲鳴を上げたのが聞こえた。 「お前のせいだ」  黒崎は短くそう言って、辺りを見回した。途端、いくつもの影がその場に現れる。 「おい、帰るぞ」  影の一つに向かってそう言った彼は、去り際にもう一度久住を蹴ったようだった。また壁にその身体を叩きつけられた久住は、もう起き上がることすらできないでいる。  そして、奇妙なものが見えた。  久住の白い首の周りに、ぐるりと巻き付けられた紐のようなもの。いや、紐ではなく、赤黒いリング状の痣。 「もう俺の提供者でも何でもない。『餌』だ」  汚らわしいものでも見るかのような目を久住に向けた黒崎は、ちらりと七瀬さんを振り返った。そして、久住の方へ顎をしゃくって見せると、にやりと笑う。 「好きにしていいぜ。『餌』を殺すなりなんなり、遊んでやってくれ」 「結構よ」  鼻の上に皺を寄せてそう言った七瀬さんは、久住を見ようともしなかった。そして、私の方を見て薄く微笑んだ。 「帰りましょう。やれるだけのことはやらないと」  潤はただ低く唸っている。まるで、獣が威嚇するかのような声。  そして、久住はただ茫然と自分の喉元に指先を這わせていた。その赤黒い痣がどんなものなのかは解らない。  ただ、『餌』という言葉だけが私の頭の中を回っていて、そしてやがて薄れようとしていく。 「死なせないわよ」  七瀬さんの声が目を閉じても聞こえた。「そうでしょ、潤」  そしてまた、腹の上で熱が弾けた。  死ぬのだと思っていた。  何もかも、もう終わりなのだと。  しかし、死の淵から連れ戻されたのだと知った。  そう、無理矢理に目を覚まされたのだと。  理由など解らない。  なぜ生きているのかも解らない。  気がつくと、私は暗闇の中にいた。  状況が解らない。頭の中が霞がかかっているのようで、何も考えることができない。  ただ、ゆっくりと目が暗闇に慣れてくると、自分がいるのが病院らしいと気づく。だが、気づいてもそれまでだ。  自分が何か呼吸器らしいものをつけられているようだと知り、身体が少しも動かないことを知り、全身に何の感覚もないことを知る。
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