第22話

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 本当に生きているのだろうか?  もしかしたら死んでいるのに気づかないだけで、実はここは死後の世界で……などと考えたような気もする。  疲れている。  そう、死にそうなほど。  なのに、目が覚めたのはなぜだ。  急激な寒気。  突然戻ってきた、全身を襲う痛み。何だ、これは。  しかし、身体は相変わらず動かない。意識が朦朧とする。気持ち悪い。  何だ、これは。  恐怖と不安。そんなものが混じり合っているというのに、何もできずにいる。  そして。  音が聞こえた。  何だ、と思う。  必死に目だけを動かした。暗闇の中、確かに浮かび上がったのは病室の光景だった。私の腕につながっている点滴のチューブ、よく解らない機械がベッドの脇に置かれている。  誰もいない病室。  また必死に目を動かすと、わずかに窓らしいものが見えた。  星すら見えない夜空がカーテンの向こうにあるようだ、と思った瞬間。  そのカーテンが揺れた。  理由など解らない。  圧倒的なまでの恐怖感が私の中に生まれる。  何だ、これは。  何だ、あれは。  何がいるんだ。  カーテンの向こう側。そこには窓があるはずだった。ああ、確かに窓はあった。窓枠がカーテンの隙間から見えて、そしてその窓が開けられているらしいと気づく。  窓が開いているからカーテンが揺れているだけだ、と思う。そう願う。  しかし。  その窓枠に、誰かの手がかけられているのが見えた。  そう、外から。  声など上げられない。身動きも取れない。  本能的な恐怖が、早くこの場から逃げ出せと叫んでいる。  しかし動けない。  その黒い手がゆっくりと動く。そして、気がつけば限りなく闇の色に近い影が目の前にあった。  悲鳴も上げられず、ただ見つめ続けるしかできない。私は怯えながらそれを見上げ、心臓を震わせて『その時』を待った。  死の瞬間を。  その影は、人間には見えなかった。  女性のように長い髪の毛はばさばさと広がっていて、わずかに風に揺れている。肌はまるでひからびているかのようで、細い腕は骨と皮だけと言っても差し支えなかった。  その前髪から覗いた双眸だけが紅く輝いていて、ああそうか、と気づく。  彼も、吸血鬼だ、と。そうだ、女性ではない、彼は男性だ。
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