第22話

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 そう理解した途端、奇妙な感覚に襲われた。  彼の腕が伸びて、今にも折れそうな細い指が私の髪の毛に触れる。 「……っ」  びりびりとした感覚。  髪の毛に神経など通っていない。  それなのに、彼に触れられた瞬間、甘い疼きが身体の奥に広がる。  それは間違えようもない性的な快感だった。身動きも取れないほど身体は憔悴しているはずなのに、無理矢理引き起こされた欲情の波に間違いなかった。  彼の指が私の頬を撫でる。  そして首筋を。  さらに呼吸器を外され、唇の上をなぞる指。  心地よい。とても気持ちいい。  解らない。自分がどうなってしまうのか解らない。  ただ、願うのだ。  彼に殺して欲しい、と切望した。  ふと、目の前の彼がにやりと笑った、と思った。  その瞬間、ひからびた彼の唇がにいっと横に伸びて、犬歯が覗く。  早く、と願った瞬間、その影が私に覆い被さってきた。私の喉元に突き立てられた牙を感じ、私の身体のどこにそんな力が残っていたのかは解らないが、ただ彼の背中に両腕を伸ばし、爪をたててしがみついた。  そうしないと、何もかもが壊れてしまいそうだった。  そして、潤のことを思い出した。彼はどこにいるのだろう? そして、目の前にいる彼は誰なのだろう?  血が自分の肉体からなくなっていく。  この感覚はよく知っている。潤があの時したような……と、遠く思ったところで、急に身体が自由になった。 「……は」  私の身体の上にかかった髪の毛が、ゆらりと揺れた。彼の喉から満足げな吐息がこぼれ、その細い手が髪の毛を掻き上げる。  先ほどまで枯れ木のようだった腕が、みるみるうちに瑞々しさを取り戻していく。  ばさばさと広がっていた髪の毛も艶やかさを放ち、今では完全に人間の姿になろうとしている。 「生き返った」  そう小さく呟いた彼の声は、何て魅力的だったことか。  年齢は多分、二十代後半から三十代に入ったばかり、といった感じだろう。見た目だけは、だが。
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