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そう理解した途端、奇妙な感覚に襲われた。
彼の腕が伸びて、今にも折れそうな細い指が私の髪の毛に触れる。
「……っ」
びりびりとした感覚。
髪の毛に神経など通っていない。
それなのに、彼に触れられた瞬間、甘い疼きが身体の奥に広がる。
それは間違えようもない性的な快感だった。身動きも取れないほど身体は憔悴しているはずなのに、無理矢理引き起こされた欲情の波に間違いなかった。
彼の指が私の頬を撫でる。
そして首筋を。
さらに呼吸器を外され、唇の上をなぞる指。
心地よい。とても気持ちいい。
解らない。自分がどうなってしまうのか解らない。
ただ、願うのだ。
彼に殺して欲しい、と切望した。
ふと、目の前の彼がにやりと笑った、と思った。
その瞬間、ひからびた彼の唇がにいっと横に伸びて、犬歯が覗く。
早く、と願った瞬間、その影が私に覆い被さってきた。私の喉元に突き立てられた牙を感じ、私の身体のどこにそんな力が残っていたのかは解らないが、ただ彼の背中に両腕を伸ばし、爪をたててしがみついた。
そうしないと、何もかもが壊れてしまいそうだった。
そして、潤のことを思い出した。彼はどこにいるのだろう? そして、目の前にいる彼は誰なのだろう?
血が自分の肉体からなくなっていく。
この感覚はよく知っている。潤があの時したような……と、遠く思ったところで、急に身体が自由になった。
「……は」
私の身体の上にかかった髪の毛が、ゆらりと揺れた。彼の喉から満足げな吐息がこぼれ、その細い手が髪の毛を掻き上げる。
先ほどまで枯れ木のようだった腕が、みるみるうちに瑞々しさを取り戻していく。
ばさばさと広がっていた髪の毛も艶やかさを放ち、今では完全に人間の姿になろうとしている。
「生き返った」
そう小さく呟いた彼の声は、何て魅力的だったことか。
年齢は多分、二十代後半から三十代に入ったばかり、といった感じだろう。見た目だけは、だが。
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