第23話

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「塞がる?」 「そして、目が覚めるまでさらに三日間」  ただ茫然と彼を見つめてしばらくしてから、私はゆっくりと視線を自分の身体に落とした。  傷、は?  病衣の襟元に手をかけ、そっとめくる。包帯なども巻いていない。痛みもない。  しかし、そこには明らかに大きな傷跡があった。縫合した跡はない。傷を放置して、自然に治癒させた感じの傷跡。 「傷跡は残るようです」  真治が申し訳なさそうに言った。「あなたが契約して吸血鬼となれば、傷一つ残らず治ったと思うのですが、残念です」 「……何で生きているんだ?」  私はその傷に手を置きながら顔を上げた。あれは死んでもおかしくないほどの怪我だったと思う。一体、どうして私はまだ生きている? 「だいたい予想はつきませんか?」  真治がそう言って肩をすくめる。  解るような気はする。しかし、彼の口から聞きたかった。だからじっと見つめたままでいると、真治が小さくため息をこぼす。 「我々の血には、人間の治癒能力を高めさせる効力があります。ただ、あなたが受けた傷は小さくはありませんでした。潤様の血ではどうにもならなかった」 「それで?」 「聖様の力をお借りしました」  ひじり、様。  名前を聞いただけで心臓が震えた。強烈なイメージが頭の中に弾け、一度見たら忘れられなくなる彼の顔を思い出してしまう。彼の名前が聖、というのか。 「そう、儂の力で助けてやったのだ、感謝しろ」  と、突然響き渡る声に私は身をすくませる。  病室のドアのところに、なぜか私が着ているのと同じ病衣をまとった彼――秋葉聖が両腕を開いて立っていた。その後ろに頭を抱えたような仕草の七瀬さんと、神妙な顔つきの潤。  潤を見た瞬間、わずかに心のどこかが痛むような気がしたが、それ以上に聖の存在感が圧倒的で、何か潤に言いたかったことがあったはずなのに忘れてしまう。 「あ、ありがとうございます」  私はついベッドから降りて頭を下げたが、聖が呆れたように笑って見せた。ひらひらと手を振りながら私のそばによると、無造作に肩を押してきた。自然と私はベッドに腰を下ろす。彼を見上げる形になった私は、いつの間にか眩しいものを見るかのように目を細めていたようだ。
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