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一体なんなのだろう、この奇妙な感覚――感情は?
「病人は寝ておけ。ちっとは様子を見ないといかんし」
「様子を?」
やっぱり自分は思考能力が低下しているのかもしれない。ただ彼の言葉を繰り返していると、七瀬さんが気遣うように言ってきた。
「蓮川さんは疲れているはずだから、あまり触らないであげてね、おじい様」
――おじい様。
潤が『じいさん』と言っていたのは彼のことなのだろう。
そして、黒崎に狙われていたのも。
「言われなくても解っておるわ!」
聖という男はひどく時代がかった言葉遣いをする。そして、長い髪の毛を両手でぐい、と後ろにまとめ上げながらぶつぶつと呟く。
「邪魔だの、これは」
「切ってあげましょうか?」
七瀬さんが無表情のまま言うと、聖が心底厭そうな表情をした。
「儂は忘れておらんぞ。そう言って以前、お前は儂の髪の毛を三つ編みに」
「それは子供の頃の話!」
七瀬さんが頬を赤く染めて叫ぶのを、どこか奇妙なものを見ているような感じで見つめていると、七瀬さんが私のことも軽く睨んできた。
「あんまりおじい様の言うことを信用しないで!」
「え……」
私が何て言ったらいいのか解らずに隣にいた真治を見やり、それから潤へと視線を投げた。そこで、潤がひどく心ここにあらずといった様子で立っていることに気づく。
何があった? と聞きたかったが、その前にとんでもない会話が隣で繰り広げられそうになっていたので声を失ってしまう。
「で、『これ』は誰の提供者だ?」
「ちょ、おじい様?」
「儂がもらってもいいのか?」
「駄目よ、蓮川さんはっ」
「えっ」
そこでやっとの思いで声を上げる。
私はまだ誰かの提供者になると決めたわけではない。だから――。
「血を飲んだ時、潤の血が混ざっていることには気づいたがな」
聖はそう意味深に笑いながら言い、黙り込んだままの潤へと目をやった。しかし潤は薄く笑って首を振る。
「大介は俺の提供者じゃない」
「じゃ、もらってもいいか?」
「それは」
潤はまるで泣きそうな顔で聖を見る。そして、そんな潤の様子を楽しげに見ていた聖だったが、すぐに私に顔を向けた。
「どうだ人間、潤と違って甲斐性だけはあるぞ。手を組まんか?」
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