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「いくら謝っても謝りきれないと思う。あのまま放置しておいて、蓮川さんが人間として死ぬことも選ぶことができた。でも、わたしたちはそれをしなかった。あなたの命を守るという名目で、さらに危険な状況に追い込んだ。許してくれなくてもいいわ。憎んでくれてもいい。あなたが求めるものにはできる限り対処する」
「いや」
私はやっとの思いで声を出した。そして、一度口を開けば後は簡単だった。
「命を助けてくれたことに感謝する。あのまま死んだら、何もかも終わりだった。やり残したことはたくさんあると思う。だから、これでよかったのだと思う」
それは本心だ。
死ぬことが怖かった。
それがあの時に感じた真実。
確かに厄介な状況にいるとは思うのだが、これからのことにあまり不安を感じない。それが自分でも不思議だ。
提供者になって家族との縁を切ること、それは絶対に受け入れられないことだと今までは考えていた。しかし、何かが自分の中で変化している。
提供者になってもいいのではないかと考え始めている。
確かにまだ、気持ちの整理はついていない。だから、もう少し考えなくてはいけないとは思うのだが、明らかにこれまでの自分とは違う考えが頭の中にあるのだ。
「本当に?」
わずかに不安に揺れる七瀬さんの瞳。
私は彼女に微笑んで、小さく頷く。すると、彼女は泣きそうな表情で微笑んで見せた。そこで、彼女の肩がわずかに落ちる。その動きで、彼女がとても緊張していたのだと知ることができた。
「丸く収まりそうで何よりだ」
聖が窓の桟に腰を下ろした格好でそう言った。そして、軽く首を回しながら唸る。
「しかし、まだ起きるのが早かったな。本調子ではない」
ふと、私はその言葉に眉を顰めた。
『起きた』のは、私の命を救うためだというのは間違いないだろう。ずっと、眠っていたということか。
そんな私の考えを読んだかのように、聖が小さく頷く。
「前の戦いでちと怪我をしてな、完全回復するまで眠っておくつもりだった。でも、すぐによくなるさ。娘はまだ眠っておるが、じきに目を覚ますだろう。うむ、また忙しくなるな」
「そうね、お母様が目を覚ませばもうちょっと楽になるわね。おじい様を縛り付けておくのに」
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