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私はしばらくの間、宙を見つめたまま動けずにいた。自分に起きたことが信じられなかったし、考えたくなかった。
しかし、目の前にいる少年の存在は夢などではない。
そして、見下ろすとちょうど腹の辺りに小さな傷があることも。
吸血鬼?
本当にそんなものが存在するのだろうか? この現代社会に?
私はただ、今の状況を考えるのを避けるために、そんなことを考える。とにかく、現実逃避をするために。
しかし。
「なあ、もう終わったと思ってる?」
少年の手のひらが私の頬に触れた。私は反射的に彼の手を振り払い、その明るい笑顔のままの少年を睨みつけた。しかし、彼を見ていると否が応でも先ほどの行為を思いだして、自分自身に対しての嫌悪がわき起こる。
相手は少年だ。
女性じゃない。
それなのに、私はどうした?
私はすぐに目を伏せ、乱れた服装を直しにかかる。しかし、少年の手がそれをとめた。
「放せ」
彼の力は強い。人間ではあり得ない力。私よりも身長が低い少年で、それほど力があるように見えない。しかし、どうやっても彼の腕を振り払えない。私は唇を噛んでしばらくの間抵抗していたが、だんだん不安が胸の中に広がってきていた。
──もう終わったと思ってる?
彼はそう言った。
まさか。
私が慌てて立ち上がろうとするのも、彼は引き留める。そして、乱暴に私を床に押し倒し、組み伏せて笑う。
「お兄さんってさ、女の人が好きでしょ」
腹の上にのしかかる彼の体重。
そして、彼の手のひらが私の喉元から腹にかけてゆっくりと這い回り、『不安』が的中しそうだと知って怖くなる。
「だから、こういうのは初めてだよね」
少年がにやりと笑って私の耳元に唇を寄せる。「こうして、男にやられるのはさ」
「放せ」
今度こそ、彼を殴ってでも抵抗しなくては、という気が起きた。何とかしなくては。
でも、彼は私が抵抗するのも解っていたようで、まるで子供をあやすかのような仕草で私を宥めようとし、それが無理だと知ってその唇を私の喉に落とした。そのまま、彼の唇が鎖骨の方へと動く。
「厭だ」
本能的な恐怖感が私にそう言わせた。
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