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思考能力が低下していて、彼を見つめているだけしかできない。だから、彼が乱暴に私に唇を重ねてきたときも、まったく抵抗できなかった。
乱暴なキス。
無理矢理私の唇に割り入って、彼の舌が差し込まれてくる。
またちくりとした痛みが私の舌先に走り、それと同時に襲ってきた快感に私は立っていることができなかった。ずるずるとその場に座り込んで、彼の唇から逃れる。荒い呼吸を繰り返していると、上から少年の声が落ちてきた。
「そんなに気持ちいい?」
「……お前……」
もう、彼のことを礼儀正しく「君」なんて呼べなかった。混乱してどうしたらいいのか解らない。それに、足が震えて立てそうになかった。
「もっと気持ちいいことしてあげようか?」
そう言いながら、少年の手が私の首筋に伸びる。「さっきより、もっと、ね」
そうして落ちてきた、二度目の首筋へのキス。
「やめ……」
急に恐怖を感じて、彼の頭を遠くに押しやろうとした。でも、それはあっさりと交わされて私は快感に震えることになる。彼のキスは首筋から下のほうへ移動していく。彼の手はあまりにも自然に私のネクタイをほどき、シャツのボタンに伸びる。
「駄目だっ」
必死にそう声を上げたのと、彼の唇が私の鎖骨の上に落ちたのが同時。
そして。
「見つけたわよ、このくそガキ!」
と、ひどく険悪な女性の声がその場に響いた。
私は顔を上げることもできないまま、そこに座り込んだままで。
少年が、「やべ」と小さく呟いたのが聞こえた。
「さっさと家に帰ってきなさいって何度言ったらわかるの!」
軽やかな足音が近づいてくる。私は何とか必死に顔を上げ、その声の主を見上げた。
どこか、少年と似た顔立ちの少女がそこに立っている。オレンジ色のTシャツ、白いデニムのジャケット、そして黒いミニスカート。細くて伸びやかな足がそこに覗いていて、さぞかし男性の視線を引くだろうと思わせる。
しかし、その美少女というのにふさわしい顔立ちのほうが印象的だった。整った顔立ちも、気の強そうな口元も、そして長い黒髪も、何もかも強烈な印象を放っている。
「さ、帰るのよ!」
そう彼女は少年に向かって叫んだ後、私の姿に気がついて眉をしかめた。
「……もうちょっと遊びたいんだけどな」
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