第2話

3/5
前へ
/180ページ
次へ
 救急箱の中にあった消毒液をそこに塗り、絆創膏でそれを覆ったものの、身に覚えのない怪我というのは不安になるものだ。  痛みがないのが救いだろうか。 「おい、蓮川」  松下がわずかに心配そうに私の名前を呼んだのが聞こえて、我に返る。そして、彼に視線を投げてそっと笑った。すると、彼は訳が解らない、と言いたげに苦笑した。  飲み会の雰囲気というのは好きだ。  あまり会話が得意ではなくても、周りが盛り上がってくれるからそれを見ているだけでも楽しい。  私は常々、飲み会のような場所では人間ウォッチングに集中する。不思議なもので、仕事以外で見えてくるその人の人となりというものが面白いと感じる。仕事では真面目な人間が、遊びとなるとしっかりと切り替えて盛り上がっている様を見ると、尊敬に近い感情を抱く。私にはできないことだからだろうか。 「蓮川さん、飲んでる?」  急に、私の横に女性がやってきた。そして、手に持っていたビール瓶を傾け、私の空になったグラスにそれをつぐ。その慣れた手つきを見ながら、私はそっと笑う。 「飲んでる」  その彼女も同期の女性だったから、話しやすい。私はいつもと変わらない口調でそう応えた。  私たちがいる飲み屋は、駅の近くの大衆居酒屋で、若い人たちから年配の人たちまで幅広く入ってくる人気店である。店のスタッフも元気よく、明るい雰囲気が心地よい。  私の勤める会社の人間十数人が集まり、座敷に上がり込んでそれぞれくつろいでいる。気心が知れている仲間だからか、皆も酔うのが早いらしい。  次々に並べられる料理の減りに比べて、酒が追加されるのが早い気がする。  そんな中、私はマイペースにビールを飲んでいた。もちろん、食事もしっかりと取りながら。 「蓮川さんって、不思議だよね」  そんな私の横に座った彼女は、栗原さやかさんという。おそらく、私と同い年で、未婚である。彼女はどうやら私の横に腰を落ち着けるつもりらしく、自分の飲んでいたグラスや、料理の取り皿などもそこに運んできている。 「何が不思議なんだ?」  私はそんな彼女を観察しながら、周りの声に負けないように、いつもより大きな声を上げて言った。
/180ページ

最初のコメントを投稿しよう!

220人が本棚に入れています
本棚に追加