再会

2/4
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 当時、高島先生は新人教師で女子の間では人気が高かった。走る姿が躍動的でかっこいいとか、笑顔が魅力的とか言われていた。でも、私にはそんな言葉はあまりぴんときていなかった。 「お口を開けてください」 「うぐ」 「上の歯ですか? それとも下ですか?」 「うえ゛のおぐからにばんめぐらい」 「はい、見てみますね」  大きく口を開いた高島先生に顔を寄せる。そういえば、何百人も歯の治療をしてきたけど、知り合いの治療はこれが初めてだった。普段は冷静沈着に処理していく患者の口腔に、不思議な生々しさを感じた。  検診針を先生の口に差し入れ、順番に診ていく。虫歯のないきれいな歯の中に一か所だけあやしいところがあった。 「あら、ここですね」 「うう……」  先生が情けない声を上げた。きれいな歯だけに治療は初めてなのかもしれない。  検診針の先端で患部をつつき状態を見定める。 「ほんの初期の虫歯ですね。すぐに治りますよ。まあ……」  私は顔を上げ、目を見開いてこちらを見上げている先生の顔を見る。 「少し削らないといけませんけどね」 「あぐ」  先生は少し涙目になっている。大きな図体をしているくせに情けない。何百人もの患者さんを治療してきて、初めて抱く感情だった。そして同時に、『可愛い』と思った。 「じゃあ、治療にはいりますね」  私は検診針を、歯を削るためのタービンに持ち替えた。手元のスイッチで回転をオンにする。 『ヴーッ』  タービンの先端から回転音が響く。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!