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床を見つめて数秒が経過した。
ミヤサカは瑞希の手を外し、そっと握る。
「行こうか」
初めて握られたその手は温かくて、瑞希は泣き出しそうになった。
この大きな手を握り返そうか。
けれど、さっきの切ない彼の顔をよぎり、ためらってしまう。
瑞希は彼の横顔を見つめた。
不安が押し寄せては引くを繰り返して、心が安定しない。
受付前を抜け、自動ドアを出ると、湿気を帯びた空気が肌を包んだ。
瑞希は顔を上げ、病棟の一角を見上げる。
『……俺と結婚してくれないか。
ずっと大事にするって、約束するから』
あそこでミヤサカの言葉を聞いた時、彼からかすかな偽りも感じなかった。
だからきっと大丈夫。
得体のしれない不安だってあるけれど、この手を離したくはない。
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