第1章

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「海が喋ってくれれば早いが、海が覚えてくれている保証はない」 「迷宮入り…という訳ですね」 「『目には見えない世界』というのは、ここが怖い所なんだ。魅力でもあるんだがね」 「最近は『誰かと似ないように』と思って描いてたんです…」 「楽しく描けばいいんだ。それが出来ない時は描かなければいい。 締切があるのは分かるが澱んだ海に嘘の色を塗る必要はないんだ。 読み手にはバレるし、何より読んでいて楽しくない」 「先生のおっしゃる通りです」 「帰りの足取りは軽くなったかね?」 「はい、少し楽になりました。ありがとうございました」 「私は歳だからいつも足取りが重いよ…。マスター、勘定を頼む」 《ありがとうございました お気をつけて…》 僕は 先に店を出ると、急いでタクシーを停め、 先生をご自宅まで お送りした 少しは海の色も綺麗になっただろう… 今なら楽しく描けそうな気がする
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