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「海が喋ってくれれば早いが、海が覚えてくれている保証はない」
「迷宮入り…という訳ですね」
「『目には見えない世界』というのは、ここが怖い所なんだ。魅力でもあるんだがね」
「最近は『誰かと似ないように』と思って描いてたんです…」
「楽しく描けばいいんだ。それが出来ない時は描かなければいい。
締切があるのは分かるが澱んだ海に嘘の色を塗る必要はないんだ。
読み手にはバレるし、何より読んでいて楽しくない」
「先生のおっしゃる通りです」
「帰りの足取りは軽くなったかね?」
「はい、少し楽になりました。ありがとうございました」
「私は歳だからいつも足取りが重いよ…。マスター、勘定を頼む」
《ありがとうございました
お気をつけて…》
僕は
先に店を出ると、急いでタクシーを停め、
先生をご自宅まで
お送りした
少しは海の色も綺麗になっただろう…
今なら楽しく描けそうな気がする
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