セールスマン

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 そうすれば一千万……いや、一千五百万くらいは出すかもしれない。ローンさえ組んでしまえばこっちのものだ。 「遠いところようこそ」  敷地へ車を入れると直ぐに昨日の女性が玄関から出てきた。家屋はかなり大きな平屋の一戸建てだった。どことなく懐かしい気持ちにさせる。 「これは立派な木造建築ですね」  心が弾む。これだけ年季が入った建物ならあちこちガタがきているに違いない。 「田舎ですから土地だけはあるので。どうぞ上がってください」 「あ、すみません。お邪魔します」  今日は奥さん一人だけみたいだった。念入りに化粧をしているし、きっと久しぶりに話す若い男にウキウキしているんだろう。俺は爽やかな笑顔を絶やすことなく、まず世間話に花を咲かせた。ここでガッチリ奥さんの気持ちを掴んでおけばスムーズに契約へこぎつけられる。奥さんはよっぽど俺を気に入ったみたいで、あれやこれやとパンフレットを見ながら質問してきた。気が付けば窓の外はもうすっかり夕闇に包まれている。 「あら、そろそろ家の中を見ていただこうかしら」 「そうですね」 「風呂場は廊下の奥です」  居間を出て廊下の奥を案内される。その途端、電話のベルが鳴り響いた。懐かしい黒電話の呼び出し音だ。 「あら、ごめんなさい。お風呂場、見てもらえます?」 「いいですよ」  奥さんが居間へ戻り、俺は奥へと足を運んだ。  廊下は意外と長かった。奥へ行くにつれ薄暗くなる。外観よりだいぶ傷んでそうだ。これはますますイイ。風呂場のドアを開けてギョッとした。中は更に古い作りだった。小さな浴槽。まるで昭和初期にタイムスリップしたみたいだ。懐かしいというより、ちょっと気味が悪い。薄暗いし、とてもジメジメしている。タイルを敷き詰めた壁もカビで真っ黒だ。  こんな風呂を使うとは信じられない。壁から蛇口が二つ出ている。水とお湯と別々。シャワーもない。俺は携帯で風呂場の撮影をした。奥さんはなかなか現れない。ふと気付いた。きな臭い。何かが燃えている臭いだ。ドアを開けると霧のような白いモヤ。もしや火事? 俺は居間へと走った。 「うっ!」  居間は火の海になっていた。天井を舐める炎。  い、いつの間にこんな。  炎に目を凝らすと、ソファの下で倒れている人影が見えた。
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