第1章

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いつも通りだった。 いつも通り、目の前に置いた鏡に向かって全力で笑うワタシは、アイメイクに特に時間をかけて、真っ黒の肩まで伸びた髪を簡単にクルッとまとめ上げ、黒のセルフレームの眼鏡をかけている。 これがいつものワタシ。 そしてきっと、この日常が永遠に続くのだと思っている。 日常を変える勇気がないだけなのかもしれない。 「お電話、ありがとうございます! 健康市場の白石でございます。」 私は、白石莉子。もうすぐ31歳を迎える独身女。 健康市場という会社のコールセンターに勤務して、あと数日で迎える4月で、8年が経過しようとしている。 コールセンターは、お客様と顔を合わせる事はないけれど、声だけでの接客だからこそ、常に笑顔で接しようと心がけている。だから、目の前に鏡を置いているの。 「広告の化粧水ですか? もちろん、私も使わせて頂いているのですが、んもう、すっごいプルップルになりました!本当ーに、お薦めですよ!」 こういうセリフや商品の成分の説明は、もうマニュアルを見なくても、暗記できるくらいのキャリアになっていた。
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