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◇◇◇◇
下半身にスウェットを履いただけの格好で、慌ただしくスーツに着替える陵介にほんの少しだけ、罪悪感を抱く。
「ごめん、りょうちゃん」
きっと聞こえてはいないだろう声のトーンと、場所でひとりごとのように謝ってみる。
陵介はネクタイを握りしめて、時計を見て。
「くっそ、完全遅刻じゃねぇか」
そんな声とともに、玄関へと走る。
その後ろ姿に、迎えに行くと声をかけて見送る。
ばたんと閉まったドアのなか。
さっきまで触れあっていた肌が、途端に恋しくてたまらなくなる。
「…見送るのは、慣れないな」
取り残されたような気になって、未だに胸が小さな痛みを訴える。
「俺もシャワー浴びますかね」
誰もいない玄関からついっと目をそらし、一人ごちる。
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