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佐野さんは始終、棗に敬語を使っていたし、見守る棗が頷くのを確認してから話を進めるいうスタンスを取っていた。
俺があげた企画書は3パターンあって、その中から主軸となるものを選んでもらう。
そこからは依頼主である彼女たちと詳細を決めていく。
今日は大雑把に概要を纏めただけだったので、3ヶ月後のイベントが終わるまで棗とは何度も顔を合わせなければならない。
そこまで考えて、また溢れそうになったため息を俺は珈琲の苦味と一緒に飲み込んだ。
そこへ丁度、アンティークな扉につけられたベルが来客を知らせて、澄んだ音を響かせた。
「ごめん、りょうちゃん。遅くなって」
顔をあげると、少し慌てた様子で入店してきた相沢と目があった。
近づいてくるなり、相沢は浮かない表情の俺を見て勘違いしたのか、すごく申し訳なさそうに謝ってきた。
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