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「……」 棗はいつもそう言って俺に手を振る。 俺はなんて答えるべきか分からず、そのまま踵を返した。 だってそうだろ? 好きで一緒にいる訳じゃない。 学食を出て、沙耶香の他愛もない話を聞きながら、俺は人も少ない中庭の一角に設置されたベンチに腰を下ろした。 さわさわと揺れる木葉。 もうすぐ新緑の季節が来る。 外の風は心地よく頬を撫でて、通りすぎていく。 授業が始まるからと、電話口の沙耶香が言い俺は通話を打ち切った。 「意味くらい、聞いておけば良かったな」 俺は次の時間は空き時間だ。特に急ぐ必要もなかったせいか、不意に思い出したさっきの棗の言葉がどういう意味だったのか、気になった。 場を去る口実ができて良かったと思う反面、内心それが引っ掛かっていた。 棗はよく分からないやつだったけど、悪いやつではなかった。 ないと、思っていた。 あんなことがあるまでは。
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