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これ以上、恋人ごっこを続けるのは無意味に思えた。
一緒にいても俺の罪悪感は増す一方だったし、彼女がどうしてそこまで俺と居たいのかも、もうよく分からなくなっていた。
「センパイ」
それまで黙っていた棗が、横から俺を呼んだ。
「なんだよ」
「美咲をあんまり苛めないでください」
苛めてはいない。
そんなつもりはなかった。
俺は…。
「…なっちゃん、いいよ。…陵介の言うことは…間違ってないよ」
美咲ちゃんは眉根を寄せたまま、苦しそうに笑った。
「…どうして」
「…ホントに、ずっと前から好きだったんだ。だからいいよって言ってもらってすごく嬉しくて。…それなのに。…なんで今なの?…神様は意地悪だよ」
美咲ちゃんは氷の溶けかけたグラスを両手で包むようにして、俯いた。
肩までの髪が前方にさらりと揺れて、表情を窺うことが出来ない。
「ごめん…」
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