ひとつ。

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「ーーー貴女の前世のお話です。 貴女の、気の遠くなるほどに遠い遠い前世。 貴女は、アリエストと呼ばれる世界の稲荷神でございました。 その世界はいわゆる貴女のいた地球のパラレルワールドのようなもので、地球とは違い、魔力と呼ばれる不思議な力で発展してきました。文化水準は少々地球に劣っています。 その世界にも地球でいう日本のようななところがあり、稲荷神とは土地を守る土地神様のようなものでございました。 棲みついた土地の獣や植物、ありとあらゆるものを管理し、束ねるものでした。名に神とついてはいますが、どちらかと言うと付喪神と同じようなもので、そこまで影響力などはありませんでした。 数もそれなりにはいたのですが、ある時一柱の稲荷神が人間に恋をしてしまい、その存在を人間に伝えてしまったのです。 人と神とは、本来相容れないもの。 ましてや、恋慕を抱くなど。 ですが人間に恋をしたその稲荷神は、その人間を愛し、愛されたいがため、普通ならば見ることも触ることも出来ないはずの稲荷神を触れるよう、話せるようにしてしまったのです。 その人間だけであったら良かったのだけど、何故か全ての人間にその力が、稲荷神という存在が平等に知られてしまいました。 そこからは早く、珍しいからと、稲荷神はそのほとんどが悪いことを考える人間に捕まってしまいました。そして、人間の駒や慰みものになるくらいならとその命を絶ってしまったのです。 事の次第にようやく気づいたもっと偉い神様がなんとか手を打ち、その力や稲荷神に関する記憶や諸々を封印しました。 しかし。 時既に遅く、その世界の最後の稲荷神が息絶えてしまった。
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