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私が店員さんと交渉していた時、こっちを窺ってたよね? 話が決まった後、帰る私を、物凄く憎々しげに見ていたよね?
気のせいだと思い込もうとしていたけれど、やっぱりあれは気のせいじゃなかった。
服は一点物だったため、同じ品は存在せず、結局私はあの服を諦めるしかなかった。
そんな気落ちした帰り道。引っかかった赤信号の向こう側に一人の女の子が立っていた。
私が欲しかった服を着た、真っ白いマネキンの女の子。
表情なんてない顔が笑っている。『この服は私のものよ』と告げている。
その姿が走ってきたトラックの陰に消え、トラックが走りすぎた後には道の向こうからも消えていた。
お気に入りの服を着て、自慢気に姿を見せつけたマネキンの女の子。
飾られていたお店を離れ、もう戻る所のない彼女はきっと、この先も、あの素敵な服を翻しながら世界のどこかを彷徨い続けるのだろう。
マネキン…完
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