夕暮れに染まるまで

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「新型の生物兵器だってさ」  すすり泣きや誰かを呼ぶ叫び声が飛び交う中で俺達二人は隅の方に座りこんでいた。 「アメリカで秘密裏に作っていた物が、何かのはずみで外に漏れたらしい。その威力は思いもよらないほど強力で、あっという間に……」  そんな、と透花は力なく呟く。 「こうやって逃げられた分、ここはまだましな方だ。他の国はきっと、もうとっくに」  俺はそこで口を閉ざす。今の透花に最後まで言ってしまうのは酷だった。 「お母さん達はどこにいるの? ……また会える?」  俺は何も答えてやることができない。耳にこびりついたあのサイレンに、視界がまだぐらぐらと揺れていた。  知らせがあったら近くのシェルターに入るように、というのは前から言い聞かされていたのだが、いざその局面になってみるとただうろたえるばかりで体は動かなかった。  その日はいつもと変わらない放課後で、俺は一人学校から帰っているところだった。そこに突然のサイレンだ。その時間両親は仕事に行っていたから、多分今頃は職場近くのシェルターに避難しているはずだ。探し回ってみたけれど透花の家族もここでは見かけていない。 「汚染された空気の中に少しでもいれば、八時間以内に全身の細胞が壊れて死んでしまうらしいんだ」  俺はここに来てからの数日でかき集めた情報を透花に伝える。 「だからすぐには外に出られない」  透花はもう何も言わない。代わりのように、暗く滲んだ瞳から涙がこぼれ落ちた。俺は思わず透花を抱きしめると、大丈夫と何度も繰り返す。 「ここにいるうちは安全だから。空気だってそのうち綺麗になる。そしたら俺が皆のところに連れてってやるから」
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