夕暮れに染まるまで

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 階段室の裏側にまわりこんで、そこに伸びる影に腰を下ろす。ひんやりとしたコンクリートの壁に寄りかかれば、ここからはもう柵の向こうの景色は見えなくて、ただ青い空だけが俺達の目の前に広がっていた。 「あのね、夕輝……ごめんね」  透花の小さな声が鼓膜にふるふると震える。 「私のわがままで夕輝まで付き合わせちゃって。夕輝のこと、巻き込んじゃった。ごめんね」 「別に……お前のわがままに付き合わされるのなんて今に始まったことじゃないだろ。それに俺はここにいたいからいるだけだ。だから気にすんな」  間に置かれた二人の指先が微かに触れる。俺はそちらを見ないまま――どちらともなく温もりを探り合って、指を絡めるとそのままぎゅっと握りしめた。 「ちっちゃい頃みたい」  ふふ、と照れくさそうな透花の声が、胸にじんわりと温かさを広げていく。 「ああ……ほんとだな」  それから俺達は手を繋いだまま、昔の話をしていた。幼稚園の頃結婚しようねと言っていたこと。公園で転んだ透花をおぶって帰った日のこと。小学校での遠足。クリスマス、運動会、卒業式……どれも思い出にしてしまうには早すぎる。それでも俺達は一緒にいた時間を一つ一つ辿るように思い返していた。もうすぐ誰もいなくなってしまうこの世界に、自分達が存在していたことを確かめ合うように。吸い込む息はだんだんと浅く、体も重くなっていったけれど、俺達は手を離すことなくいつまでもしゃべり続けていたのだった。
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