夕暮れに染まるまで

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 外はもう、すっかり夏になっていた。  まだ昼前だというのに目眩がするほど眩しい日差しがアスファルトをじりじりと照りつけている。のぼせた顔を上げれば、どこまでも続くような坂道の先にまだ目的地は見えなかった。今日は八月の何日なのだろう。ここしばらく閉じこもっていたせいで日付の感覚がすっかり狂っている。 「夕輝(ゆうき)―! 遅いよー!」  俺の数メートル先を歩いていた透花(とうか)が振り向いて叫ぶ。 「そんなにのんびりしてたら日が暮れちゃうよ」 「しょうがないだろ、この暑さなんだから。大体なんでお前はそんなに元気なんだよ」 「夕輝とは鍛え方が違うんだよーん」  言うなり透花は軽やかに坂を駆け下りてきて、うだうだと歩く俺の腕をぐい、と掴んだ。 「ほら、さっさと歩いた歩いた」  笑みを浮かべるその頬は紅潮し、小さな額にはうっすら汗が滲んでいる。思いがけず近いその距離に俺は慌てて目をそらすとその手を振りほどいて言った。 「引っ張るなって。そもそもお前が『最後に中学校を見ておきたい』なんて言うからわざわざ付いて来てやってんのに……」  透花がむっと唇を尖らせる。 「別に一緒に来てくれなんて頼んでないし」 「ばか、お前一人でなんて行かせられるわけないだろ」  俺はぼそりと反論して透花に向き直る。透花は一瞬きょとんとした表情で俺を見つめ返したが、やがてその口元をふわりと解いた。 「……なんだよ」 「ううん、変わってないなあと思って。夕輝のそういうところ」  そう言って嬉しそうな顔をこちらに向けるから俺はもう何も言い返せない。
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