夕暮れに染まるまで

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「なんかさ、こうやって一緒に歩くの久しぶりだよね」 「そうだな」 「夕輝がいつも私を置いていくからね。あーあ、前は手を繋いで仲良く帰っていたというのに」 「いつの話だよ」  幼稚園から一緒で、家も近所の俺達はいわゆる幼馴染という関係だった。幼い頃は学校の登下校はもちろん、放課後も公園へ行ったり互いの家を行き来したりと一日の大半を透花と過ごしたものだ。そして透花の言うように、遊び疲れた帰り道には何の恥じらいもなく手を繋いで夕暮れの道を歩いていたのだった。  こいつと手を繋がなくなったのはいつからだろう。 「ほんとに静かだな」  かつて降り注ぐ蝉の鳴き声に空気を震わせていたこの通学路も、今ではしんと静まり返っている。  この道を二年間通ってきた。中学に入学してすぐの頃、クラスメイトに透花との仲を噂されたのをきっかけに俺は一人で登下校するようになった。たまに透花が追いかけてくることもあったが、俺はその度にぶっきらぼうにあしらっては誰にも見られないようにと足早になっていた。多分この時の俺は、まだ何もわかっていなかったのだと思う。透花のいるこんな日常がずっと続いていくと信じて疑わなかったから、自分の気恥ずかしさばかりを優先してしまったのだ。透花との時間が最後になった今になって、馬鹿な俺はやっと後悔をしている。 「夕輝! ほら、学校見えてきたよ」  突然声を上げた透花はそのまま勢いよく坂を駆け上がっていく。 「おい、だから置いていくなって!」  俺が叫んでも透花は立ち止まらない。たまに俺の方を振り向いて手招きしては、またすぐに前を向いて走って行ってしまう。 「透花……」  視界に溢れる光の中をセーラー服の背中が遠ざかっていく。二つに結んだ長い黒髪が、動きに合わせてぴょこぴょこと跳ねていた。 「あんまり走ると転ぶぞ……」  また、昔みたいに。
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