夕暮れに染まるまで

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 息を切らしつつ何とか坂を登りきると、透花は開いた校門の先で俺を待っていた。駆け寄る俺に小さく笑顔を見せて、並んで校舎まで歩きだす。 「門、開いたままだったのか」 「うん。よかった、もし閉まってたらどうやって入ろうかと思っちゃった」 「お前なら楽勝だろ。いつも猿みたいにどこにでも登ってるじゃねーか」  そう笑ってからかえば、大きな目に睨み付けられる。 「なにさ、夕輝なんて木から降りられないってビービー泣いてたくせに!」 「そんなの幼稚園の頃の話だろ! いい加減忘れろよ!」 「やだねー、一生覚えててやる」  こんなくだらない言い争いが俺達の会話のスタイルだ。大抵透花の方が一枚上手で、最後には俺が負けてしまうのだけれど。  駐輪場には置き去りにされた自転車が重なり合いながら倒れている。その横を通って校舎のドアを開けると、光の入らない薄闇に靴箱がひっそりと並んでいた。 「あーあ、やっと日陰だ」  息をついて中に入ろうとした途端、後ろから声が飛んできた。 「あっ、なに靴のまま上がってんの。ちゃんと履き替えなきゃ」  俺は振り向いて、上履きに足を通している透花をじっと見つめる。 「どうせ誰もいないのに?」 「……それでも駄目なの。学校なんだから」  駄々っ子の理屈のような言葉と共に、透花は俺から目を逸らしてしまう。靴箱を閉める鈍い音が、しんとした空間に虚しく消えていった。
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