夕暮れに染まるまで

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「で、どこに行きたいんだよ」 「とりあえず教室に行こう」  階段を上がった先の廊下をまっすぐ歩けばその突き当りに二年三組の教室がある。引き戸に手をかけると、ガタガタと引っかかりながらもそれはちゃんと開いた。  誰もいないがらんとした教室は、最後にここへ来た時の光景をそのまま残していた。窓から差し込む光が、埃のたまった部屋の隅々まで照らし出している。 「いつも通りだね、教室」  後ろから顔をのぞかせた透花は嬉しそうに言って自分の席まで歩いていく。窓際の前から三列目。この前の席替えで廊下側の俺の席とはずいぶん離れてしまった。 「さすがに冷房はつかないか」  いくら押しても反応しないスイッチに諦めて、俺は席についた透花の傍に立つ。 「でも、ここ開けたら大分ましじゃない?」  グラウンドに面した窓を開けると、心地よい風が部屋にこもる熱を吹き散らしていく。透花は気持ちよさそうに目を細めると、窓辺に寄りかかって外を見下ろした。 「ねえ、夕輝」 「ん?」  こちらを向かないまま透花は続ける。 「この前、一組の西野さんに告白されたって本当?」  ぼんやりと雲の流れを追っていた俺は、突然の話題に咳き込みそうになりながら慌てて透花に視線を戻した。 「な、なんでお前がそれ知ってるんだよ!」 「噂で聞いたの!」  俺はもう頭を抱えるしかない。 「あーもう、誰だよ言ったのは」 「で、本当なの、嘘なのどっち?」 「……本当だよ」  そう返しても透花は窓の外を向いたままでその表情は分からない。ただ小さくふうん、とだけ言ってそのまま黙りこんでしまう。 「別に、隠してたわけじゃないけど」
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