夕暮れに染まるまで

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 二人の間に気まずい沈黙が降りる。俺はこれ以上どう言えば良いのか分からず透花から目を逸らした。やけにはっきり聞こえてくる壁時計の音がカチカチと俺を追い詰める。流石に何か言わなくてはと口を開いたその時、透花が呟きのような言葉をもらした。 「なんて……」 「え?」 「なんて答えたの? 夕輝……」  問いかけるその声音が思いの外しおらしくてどぎまぎしてしまう。 「断ったよ、ちゃんと」  風が髪をなびかせていく。 「好きな奴がいるって……」  俺は恥ずかしさに口元を抑えて俯いた。ほとんど告白の様な覚悟を持って言った言葉にも、透花はふうんとしか答えなかった。  しばらくの静けさの後、透花がやっとこちらを向いて言った。 「ねえ、折角だから他の所にも行こうよ。このままずっとここで過ごすのは勿体無いし」 「ああ、別にいいけど……」  いつもの透花だったらもっと食い下がってくるはずだ。それがあっさりと話題を変えたことに戸惑いを覚えつつも俺は透花の意見に従う。  透花は気にならないのだろうか? 俺の好きな奴が誰かということを。それとも…… 「ね、早く行こうよ。私、部室も見ておきたいんだ」  俺の手を引っ張る透花の表情からは何も読み取れない。と、次の瞬間、そのまま走り出そうとした透花の足がふらりとよろめいた。 「透花!」  傾く華奢な体を慌てて支える。 「おい、大丈夫か?」  全身の血の気が引いていく。問いかける声が震えた。 「ちょっと目眩がしただけ。大丈夫だよ」  けれど腕の中の透花ははっきりとした声でそう言うと、ありがとうと微笑んだ。  ほっとすると同時に、抱擁する形になっていたことに気づいて勢いよく手を離す。透花はそんな俺の様子に気づかないのかにこにことした笑顔のまま、それじゃあ行こうかと無邪気に背中を押してきた。
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