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始まりはヨーロッパの方で起こった小さな戦争だった。俺達が小学校を卒業する頃に勃発したそれは、当時世界各国で行われていた争いの一つとして埋もれ、人々は不安を抱えながらもいずれ終息するだろうと楽観的にとらえていたのだ。
しかしそんな期待を裏切るように二国間のいざこざは次々に他国を巻き込んでゆき、気が付いた時にはもう手に負えない程の規模となってしまったのだった。
「ねえ、日本もそのうち戦争になるのかな」
町を歩くと至る所で目につく仰々しい扉に透花は時折不安そうな顔を見せていた。万が一のためにと政府が作らせたシェルターだ。
「さあ、今のところその意思はないって言ってるけど」
生活の中に入り込む明らかに異質なそれに、俺は当たり前にあった日常が徐々に壊れていくのを感じていた。
とはいえそれから特別変わったこともなく月日が過ぎ、二年生に上がる頃にはシェルターのある風景にも違和感がなくなっていた。ギリギリながらも保たれている平和だ。じきに戦争も終わる。そんな風に思い始めていたのだが。
まだ新緑の眩しい五月、それはけたたましいサイレンと共に終わりを告げた。
「夕輝! 夕輝!」
悲鳴のような声に辺りを見回すと、押し寄せる人の波にもまれて透花がこちらに走ってきていた。伸ばされた腕を掴んで傍に引き寄せる。そのまま胸に飛び込んできた透花は縋る様に俺を見上げた。
「ねえ、何が起こってるの? 皆は……」
「立ち止まらないでください! 奥に詰めて!」
聞こえてきた叫びに俺は口を噤むと、震える透花の肩を支えて人ごみの中を進む。押されるまま薄暗い道を通ってやっと広い場所に出た瞬間、背後にガチャンと扉の閉まる重々しい音が響き渡った。
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