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「マフラー貸さなきゃ良かった。そしたら、首筋にある痕、丸見えだったのにね。」
「っ!」
ユキの言葉に慌てて抑えた首筋。それを満足そうに見たユキが口角をキュッとあげて面白そうに笑う。
「それね、消えないから。昨日お前が寝たあと、もっかい噛み付いといた。」
抑えた掌をギュウって握られて外された。
「言っとくけど、俺は侑人と同棲なんかしないよ?大体、隣同士で聞こえたらどうすんだよ、侑人に。サナのあんな声とか…あんな声とか?」
身体が一気に熱を持って、顔が紅潮したのが自分でも分かる。
「壁は意外と薄いのよ~サナさん」
「そ、そっか…う、薄いよね、壁って。」
つまりは…侑人とユキの会話、聞き放題!
「ユキ、大丈夫だよ!私、一人で居る時って喋らない人だから!」
浮かれる私に眉を下げて苦笑いを浮かべるユキ。
「あ~…この人は本当にもう。」
手の指を絡めると、そのまま自分の上着のポケットに突っ込んだ。
「侑人んちは一緒に行ってあげる」
「じゃ、じゃあ…」
「でも侑人とは暮らさない。」
「うっ…。」
「負けてたまるかっつの。」
そのまま「ほら行くよ」って引っ張る。
「ちなみに、蒼井礼奈、ここの受付に居るから。ほら、この前エミちゃんが言ってたでしょ?俺に告った受付嬢が居るって。それがそう。中途採用で去年から勤め出したらしいよ。」
「う、うそ…」
ポケットから手を引き出そうとしたらそれを拒む様に力が籠る。
「戦いなさいよ、あなたも。俺の彼女になったんでしょ?」
『あなたも』…?
「ユキは戦ってるの?」
「そりゃね。俺は散々今までだって戦って来ましたよ?鈍感でズレてる誰かさんの為に、身を削って散々…」
…そうなの?
いや、でも私、そもそも『敵』となるような人達がいたかな?
首を傾げて考え出したらまた引っ張られた。
「ほら、あなたもこれからは俺の為に戦う!言っとくけど、覚悟しないと、討ち死にするからね?俺、相当モテるから。」
「そ、それは…わかってます。」
雰囲気にのまれてゴクリと生唾を飲み込んだ私をユキが面白そうに笑う。
「まあ、頑張って?」
「う、うん。」
ユキのポケットに突っ込まれいてる手にギュウって力を入れて、ユキを引っ張り気味に歩き出す。
いいよ、戦ってやろうじゃない。
ユキがそれで一緒に居てくれるなら。
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