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◇
意を決して歩き出したサナに頬が緩んで慌てて腕で隠した口元。
素直っつーか、なんつーか…そう言う所、ずっと変わらない。
あなたが俺の前に初めて現れた日、おばさんの後ろから不安そうに俺を見てたけど『一緒に遊ぶ?』って声かけたら満面の笑みに変わって。
それが俺はすっごい嬉しくて。
それからもずっと俺の言動にいちいちコロコロ変化するサナの表情がたまんなく好きだった。
なのに、『しつこい』なんて言っちゃってね。
マジで若気の至りだわ。
…なんて、過去を振り返っている場合じゃないんだけどね、俺も。
この人モテんだよ、ほんとに。
基本、真面目だし、誰隔てなく、優しいから。
その上本人は気付いてないけど、そこに『ズレ』って要素が加わる事で更にモテてる、明らかに。
まあ、そりゃそうでしょって話しなんだけど。
だって、本人はイケメンのわちゃわちゃ観察のつもりかもしれないけど、相手の男からしてみたら、ニコニコして自分の事を見ていてくれてて、でもそこに色目が無いから、無駄に女っぽくない感じでさっぱりして見えるわけで。
そんなコを男共がほっとくわけ無いんだよ。
会社に入ったら更に『ズレ友』まで出来ちゃったもんだから、余計にイキイキして、益々モテちゃってさ…お陰で俺は戦いの日々ですよ。
あなたに寄って来るヤロー共を蹴散らさないとって。
まあいいけどね。そんな面倒くさい努力をしても、サナと居たいって思うわけだから。
ポケットの中で固く握られてる掌にこの上なくニヤケる顔をなんとか抑えて、ズンズンとがに股で歩いてくサナに引きずられる様にして入って行ったエントランス。
蒼井礼奈が同僚と一緒に受付の所に座ってた。
距離を少しあけて真正面にピタリと立ち止まるサナ。
「…ユキ。」
「何?」
「どっちが…蒼井礼奈さん?」
…だよね。顔を覚えてないんだもんね。二人居たら分からないよね。
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