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……インフルエンザウイルスだけ、私の『胡蝶の夢』で幻に返せればいいんだけど……
文字や言葉を媒介にして異能力を発揮する者を、文士、という。
私と御師様は、文士会派・禿一派に所属する文士として、日々その力を行使している。
特に私の持つ能力『胡蝶の夢』は、現(うつつ)を幻に、幻を現に返す、夢と現の境界をなくす力だ。
この能力を上手く応用できれば、特定の物だけを幻に返し、現の世界からかき消すということもできるのだろうが。
……多分、他の臓器も一緒に幻に返しちゃうだろうから、危ないよね………
文士、特に私のような言霊遣いはイメージが命。
イメージがつきにくいものに対して力を行使するのは難しい、というよりも危険だ。
こういう時はやはり、その道のプロに任せるに限る。
今回でいえば、内科の先生がそのプロに当たる。
「遊仙さん?」
ぼんやりと考えを巡らす私の意識の向こうから、不意に聞き慣れた声が聞こえてきた。
ハッと我に返った私は、ゼエゼエと息をつくのに必死で返事もできない御師様に代わって相手のことを見つめる。
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