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八月某日。 ぎらぎらと照りつく太陽の光と、どこからともなく鳴り止むことのない蝉の声を浴びながら僕はここに立っていた。 人気のない森の中、額に汗を滲ませながら見覚えのない景色を見渡す。 ここは一体どこだろうか。何故僕はここにいるのだろうか。そして、ぽっかりと心に空いてしまったある一つの感情、これの在処を必死に探していた。 しばらく進んでいくと街に出た。今までの記憶が不思議と全くなかったが、誰かに会いたい、会わなければいけないということだけはなんとなく感じていた。あと、自分には時間が無いという事も。 海へ来た。若い男女が楽しそうに遊んでいる。けれど、違う。此処ではない。 遊園地へ来た。子供連れの夫婦が沢山いる。ジェットコースター、メリーゴーランド、観覧車。懐かしさを感じながらも此処を後にした。 他にも色々な場所へ向かった。水族館、動物園、映画館、レストラン、カフェ。けれど皆違う、違う違う違う。此処には無い、其処には無い。僕の求めているものは何処にも無かった。 いつの間に夜になっていたらしい。月明かりに照らされながら街を歩き続けていると、ドーンという音が聞こえた。空を見上げると、綺麗な花が夜空に咲いていた。 「あぁ、花火だ」 去年の夏もアイツと見たな。懐かしさに笑みをこぼしながら胸元のポケットに入っていたタバコを一本取り出し、火をつけた。 空高く登っていく煙と共に、咲いては散り、また咲いては散りゆく花火を眺めていた。 一本目のタバコが尽きかけてきたその時、ふと僕は自分の言葉を思い出した。 『去年の夏もアイツと見たな。』 ...あれ、アイツって誰だ?
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