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僕は全てを思い出した。
僕には一人、大切な人が居たこと。
その人は花火が好きだったこと。去年の夏、ピンク色の綺麗な浴衣を着た彼女と一緒にこの夏祭りの花火を見に来たこと。
僕がタバコを吸う度、体に悪いから辞めろと火のついたタバコを取り上げようとしてきたり。かわいそうだから。という理由で捨て猫を何匹も拾ってきて家の中が猫屋敷になってたり。他人に優しくて、いつも笑顔で。けれど、自分のことはいつも後回しで。悲しい顔を見せないで抱え込んで。僕なんかには勿体ないくらいのとっても素敵な女性。
君は最期まで、そんな人だった。
こんな僕のくだらない願いのために。臆病な僕のために。死ぬのが怖い僕のために。あの人は笑って僕の願いを承諾した。
去年の夏祭りの帰り道、僕らは心中を図った。
それ以来君の姿を見ることはなかった。
八月某日。
今日は他でもない君の命日だ。
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