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走った。
来た道を全力で走った。なんで今まで思い出せなかったんだ。こんな大事な事を忘れて呑気に花火を眺めていた自分のクズさを心底呪った。
涙のせいで視界が歪む。色の無い街を駆け抜けていく。
あともう少し。あともう少しで君に逢える。君の大好きな花火をまた見に行こう。
やっとこさ辿りついた森の中を進んでいくと、人の気配を感じた。
此処に人が訪れることは無い筈だ。所有者のいないこの土地を選んでこっそりと君の墓を建てたのだから。
不思議に思い、その人に近づいていった。
ぽつんとひっそり佇んでいる黒い石の前で手を合わせている。
その石は綺麗に汚れを落とし、新しい花が添えられている。
誰だろう。君には親族がいない。君のお父さんとお母さんは数年前に亡くなっている。
距離を縮め、正体を暴こうとそいつの肩を掴もうとしたその時、墓を掃除した時にできたのであろう水溜りに映る顔を見て僕は息を飲んだ。
「なんで...」
涙を浮かべながら石に手を合わせ続けるその人こそ、僕の一番会いたかった人。僕がずっと一緒に生きたかった人だった。
背後でドーンと音がなった。
ヒューと音を立て夜空へ向かって行き一際大きく咲いた火の花は、散ったきりもう、咲くことは無かった。
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