笑う男

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(ふう....今日もいい事なかったな....。) 僕は同僚達の背中を見送りながら、心の中で呟く。 そして、人々が通り過ぎる中、不意に僕は足を止めた。 場所はスクランブル交差点のど真ん中――。 人々の声と、信号機から発せられる音声が五月蝿く響き渡る。 (五月蝿いよ....。 良いことの1つも無いんだから、せめて一人静かにボーッとさせてくれよ....。) 僕は向け処の無い怒りを、その内側に抱え込みながら、荒れ狂う心の中で静かに呟いた。 何時まで、堪えなければいけないんだろうか、こんな苦痛を――。 幸せだと感じた事も無く、楽しいと感じる事も無いに等しい。 なのに、僕は――。 死にたい――。 そう思った事もあった。 だけど、それを家族に告げたら全力で阻止されたのである。 薬やカウンセリングと、果ては催眠治療と言った具合でだ。 そして、僕には行き場は無くなったのである。 だから息が詰まる思いで僕は....ただ、生きているだけ....。 (不幸過ぎるだろ....これ――?) 最早、苦し過ぎて思わず笑えてくる。 滑稽過ぎた。 これは悪い冗談としか思えない。 有り得なかった....耐えるだけの人生なんて....。 (こんな苦しみしかない腐った世界なんか――。) ――壊れてしまえばいいのに―― 僕は、そう思った。 そう無くなってしまえば――。 苦しむ事もない。 全て無くなってしまえばいい――。 だが、そんな事は有り得ない。 それは自分でも分かっていた。 死ぬ自由すら憚られる世界なのだから。 昔、己の不幸や苦しみに耐えられなくなり、多くの人が自殺した。 そして、そんな状況に危機感を感じた日本政府が対処し薬剤や、カウンセリング、はたまた催眠治療といった対処を始め自殺者は激減したのである。 それ故に....。 いや、だからこそ――。 行き場を失った者は、どうしたらよいのだろうか? この苦しみを何処に向けたらいいんだ――? グルグルと頭の中を、回り続ける生きる事の苦痛――。 だが....その直後、不意に1つの思いが沸き上がる。 ――こんな世界、壊してしまえばいいんだよ―― ――こんな、下らない環境も、状況も―― ――傷付けるだけの奴等も ―― ――壊してしまえ―― それは今まで、考えた事のない事であり、それは到達してはならない考えだった。 本来なら絶対に行き着いてはならない答え――。
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