笑う男

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そうある事は、悪と定められており実行してしまえば、今まで築き上げてきた全てを失う――。 だが....。 失うモノが無いのなら、そんな事を気にする必要性はあるのだろうか? (そうか、我慢する必要はなかったんだ....。) ――どうせ、僕には何も無いのだから―― そう....耐えて守るだけの何かが、今の僕には無い....。 (そうだよな....。 何を我慢してたんだろな僕は....?) そんな時、不意に笑いが込み上げてきた。 死にたいと感じた時に....。 死のうと思った時に、何時も出てしまう笑い。 それは自分の人生を振り返り、不幸すぎて滑稽故に自らの人生を嘲笑う為の笑いである。 だが、今の笑いは....それとは何かが違う。 何かが――――? 「はは....ははは、うははっ! アッハッハッハッハハ――!!」 いきなり込み上げてきた笑い――。 その笑いは、止めようとしても止まらなかった。 いや、止められなかったのである。 僕が周辺を何気に確認すると、周囲の者達は足を止め、そんな僕を不思議そうな目で見詰めていた。 当然であろう。 こんな人通りの多い場所で、いきなり笑い出したら誰だって足ぐらいは止める。 だが、そんな事は今の僕にとって、どうでも良い事だった。 そう....どうでも良い事である――。 何故かは分からないが....僕の心は今、澄みきっているのだから....。 まるで、頭の中の霧が晴れたようだった。 そして、僕はその澄みきった意識を前方の同僚達に向ける。 同僚達はいきなり笑い出した僕に、訝しげな視線を向けていた。 まぁ、そんなモノだろう。 職場の同僚など、飽くまでも一緒に仕事をする事になった単なる知人――。 その程度に過ぎないのだから....。 そう....彼等は所詮、仲間と言える者ではない。 それは本質的な意味で、彼等にとっても同じであろう。 ただ、同僚イコール仲間と言う言い方が、彼等にとって都合良い響きと言うだけの事なのだから....。 だけど....それも、もう直ぐ終わる――。 いや....それを終わらせるのは僕か....? 僕は、そんな事を自然に考え........そして、実行に移した。 鞄から金属製の外装のボールペンを、取り出し右手で掴み取る。 誰もが僕が一体、ボールペンなんかを取り出して、何をする気なんだろう?――。 そんな疑問に満ちた目で、僕の事を見ている。
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