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そんな静まりかえった周囲の様子――。
重い空気が漂う空間――。
だが、不思議な事に僕には緊張感といった者は微塵も無かった。
ただ、そんな周囲の様子に....そして、その呆然とした人々の間抜けな顔に思わず笑いが込み上げる。
「はっ、くはっ!
はっ――ハッハッハッ――!!」
僕は、そんな笑いを発しながら走り出した。
向かうべきは会社の同僚、西江・好行【にしえ・よしゆき】の元である。
西江は状況が飲み込めず、馬鹿みたいな表情で僕を見詰めていた。
――何で俺の方に、走ってくるんだ?――
彼は多分、そんな事を考えているのだろう。
それが西江と言う男だ。
感情のままに行動し、嫌な事などを押し付け、それが当然であるがの如く振る舞う。
そして極めつけは、平然と八つ当たりするのだ。
僕は、そんな彼の悪意を含んだ行動にどれ程、耐えてきただろうか?
苦しみの中で生きてきた僕にとって、更なる苦をもたらす彼の行動は、明らかに僕にとって災厄と言えた。
だが最早、そんな事はどうでもいい。
何故なら、今は彼の存在こそが僕に安らぎを与えてくれると僕は【確信】しているからである。
そう........彼の苦しみこそが、僕を癒してくれるであろうから――。
――――――後、7歩ぐらいか?――――――
僕は一気に、その間合いを詰めるべく移動速度を早めた。
体が弾む様に軽い――。
それは、まるで....体に付いていた重りが外れたかの様な....そんな感覚――。
そして僕は飛び跳ねながら、間抜けな顔で此方を凝視する西江の右目へと、ボールペンを突き立てた。
ズニュッ――――。
彼の右目にボールペンが突き立てられた直後、一瞬そんな微妙な抵抗感が僕の右手に伝わってくる。
だが、そんなモノは一瞬だった。
僕の体重が乗ったボールペンは、西江の右目に易々と突き刺さり、上を見上げたままのその瞳に一気に沈み込む。
全てはほんの一瞬の出来事だった。
その濁った黒い右目に、突き立てられたボールペンが西江の身勝手さが浮き出た表情を、恐怖と悲鳴に塗れた表情へと変化させる。
「うぎィィィッ――!?
うぎゃあゃァァァァァァァァァァ――!!!!!」
その直後だった。
西江は狂ったように、もがき苦しむ。
僕は、そんな情けなく泣き叫びながら惨めに、地面を転がり続ける姿に思わず笑いが込み上げる。
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