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(あ....あぁ........心が洗われる様だ....。)
不思議だった....彼のそんな苦しむ姿を、見て僕の心の中は――。
――――妙に、心がスッキリしていた。
少し前の僕ならば血を見ただけて、卒倒しているだろう。
だが、今は彼の苦しみこそが僕を癒してくれる。
不思議だった....まるで生まれ変わった様に心が軽い....。
(そうだ....もっとだ。
もって、君の苦しみを見せてくれ西江――。)
周囲の人々や他の同僚が見てる中、西江の右目に刺さっているボールペンを、掴み更に深く突き入れながら――。
僕は....そのボールペンで、彼の右目の内側をカキ回した。
「いきぎぎぎぃぃ――――!」
その直後である。
西江の体が大きく跳ね、小刻みに震えたのは――。
どうやら、ボールペンは脳まで達してるらしい。
ボールペンをカキ回す度に、西江は奇妙な動きをしながら、奇声を上げる....。
それが妙に可笑しく、そして僕の心を癒してくれた。
そんな中、不意に僕の背中に何かが投げつけられる。
良く見れば、それは女物の鞄――。
同僚の加賀美屋・夏生【ななみや・なつみ】の鞄だ。
色は赤。
つまり、邪魔したのは彼女だろう。
結構、丈夫な鞄で金具等が付いている為、普通に考えてぶつけられた部分に、痛みがあって然るべき筈なのだが、不思議な事に痛みは無かった。
いや....寧ろ、心も体もスッキリとしている。
絶好調と言えるだろう。
(たく....いい所で邪魔してくれるよな?
まぁ、いいか....どうせ西江は駄目だろうし?)
僕に医療の知識は無いが、西江の傷が既に致命傷なのは明らかである。
それに、どうせ次は西江の彼女である加賀美屋にも、苦しんでもらおう思っていた所だったのだから、彼女が絡んできてくれた事は好都合と言えるだろう。
加賀美屋は、分かりやすいくらい表裏のある女性だ。
僕も彼女に散々、良いように使われ――。
からかわれた。
彼女は、人を簡単に傷付ける事の出来る馬鹿女である――。
つまり、西江と加賀美屋は世間一般では明らかに屑に属する、バカップルだったのだ。
だが、それは今の僕にとって、どうでも良い事だったのである。
何故なら、彼等がそう言う奴等だからこそ今の僕は癒されるのだから....。
「有り難う加賀美屋さん――。」
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