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「分かんないよ、ギーゼイ……」
ぎゅっと抱えた両の膝頭に、額を押し当てる。
目を閉じると、花の香りや鳥の声を、より一層強く感じ取れた。
ギーゼイを連れ戻す決意も、本当に分かり合えないことが決まったら倒すという決意も、嘘ではない。
今さら、自分で決めたことを翻すつもりはない。
けれど、どうか帰ってきてほしいと願う本音は、否定したくなかった。
(帰ってきてほしい……なんて、自分の所有物みたいな言い方かな)
記憶を喪失し、耳も聞こえなくなっていた自分に、この2年間、誰よりも側にいてくれたのは、ギーゼイだった。
特別に優しくしてくれたわけではないけれど、妙な気遣いや世話を焼くのではなく、普通の友人として接してくれたことが、本当に嬉しかった。
一緒に授業をサボって怒られた時も、一緒に模擬試験に臨んで緊張感を共有した時も、たまに喧嘩をしてどちらも譲らなかった時も、ギーゼイは決して、必要以上にローンファルを特別扱いしなかった。
初めこそ、顔の怖さや乱暴な考え方、しかもあちこち連れ回す強引さに途惑ったけれど、いつでも彼の言動には彼なりの大義があったから、いつしか恐いと思わなくなった。
黙っていればかっこいいのに、口を開けばチンピラ全開だし、人相は悪いし、喧嘩っ早いし、負けず嫌いだし……でも、頭の回転が早くて、機転が利く。
本当は優しいくせに、日頃の悪人じみた言動のせいで、なかなか理解してもらえない。
彼を特別視するようになったのが、いつ頃からかなんて、思い出せない。
徐々に惹かれていったのだと思う。
……一緒にいられたら、それで良かったのに。
(あぁ、だめだ)
胸がつかえるような不快感が押し寄せてくる。
暗い考え方をしてしまっては、だめ。
ローンファルは両手足を伸ばして大の字に寝転がった。視界が空の青に染まる。
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