早朝

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朝がきた。 近くにある寺の鐘の音が微かに聞こえる。 俺はカップに珈琲を注ぐため、リビングへと向かう。 珈琲を入れたら直ぐ、ベランダに向かわなければならない。 途中、偶々目についた煙草を一本ポケットに入れて俺は珈琲を淹れる。 急いでベランダに向かうと、東の空にはまだ太陽は出ていなかった。 ―――なんだ。急ぐことなかったな。 俺はそう思うと、淹れたばかりの珈琲を啜る。 季節は冬。 この間バレンタインが終わり、息子が期末テストだと騒いでいたから暦では春か。 俺は今年から始めた「朝日を眺めながら珈琲を啜る」というのを行っていた。 年末、俺が妻に、 「朝は眠気が取れない」 と言ったら妻は、 「毎朝朝日を眺めれば眠気なんて吹き飛ぶよ」 と言ってきた。 年が明け、初日の出を見るためにベランダに出ていると、朝日が昇ってきた。 俺はその時、本当に眠気が吹き飛んだ。 その日から俺は毎朝朝日を眺めている。 淹れたばかりの珈琲が旨い。 ―――そういえば。 俺はポケットをあさり、さっき入れた煙草を取り出す。 俺は普段煙草を吸わないが、久々に吸うことにした。 ――ライター、何処やったっけ。 煙草を口にくわえながら、ポケットをあさると上着の内ポケットからライターが出てきた。 煙草に火をつける。 「ふぅ」 ―――旨い。 久々に吸ったからか、煙草が妙に旨く感じる。 ―――灰皿忘れた。 俺はまた灰皿を取りにリビングへと急いだ。 灰皿を持って、再びベランダに出る。 数分間煙草の味を満喫していると、朝日が昇ってきた。 煙草の火を灰皿で消して、俺は朝日を眺めながら珈琲を啜る。 年明け直後に死んだ妻の、最後のアドバイスを俺は聞き入れ、今日も実行する。 やがて、珈琲が無くなったのに気づいた俺は、息子のために朝食を作りにベランダを去る。 ―――菜月。俺もう行くよ。 俺は一度、ベランダを振り返る。 窓から見える景色は、朝日により美しく色づけられていた。 「さて、今日も頑張りますか」
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