タバコとコーヒー

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「それでは失礼します! お邪魔しました!」と特にこちらと話をするでもなく、マイペースに自己完結する流れにホッとして「どうも」と扉を閉めようとした桜子に、頭を下げて去りかけていた男がふと二度見して再び話し掛けてきた。 「人違いなら申し訳ありませんが、もしかして…………タバコ!?」 その言葉に思わず桜子の動きが止まる。 タバコ―― 中学生の頃の桜子のアダ名である。 別に桜子がその頃やんちゃして煙草を吸っていたとかそういう訳ではない。単に桜子のフルネームの“田端桜子”を縮めただけだが、中学卒業と共に引っ越した桜子にとってはあくまでその頃だけのアダ名で、それを知る者はそう多くはない。完全に油断しきっていた桜子は、不意をついたまさかの言葉につい反応してしまったのだ。 (何でそれ知ってるの!? 誰!?) 不意をつかれた事もあり、にわかに恐怖感に襲われた桜子は、男の顔を見る事も出来ずにただ固まっていた。 関わり合いにはなりたくないが、迂闊な事を言えばボロを出すかも。でもとにかく否定しないと……。
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