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しかしここに至りて、さすがに桜子もそろそろ本当に同級生なのかも知れないと思い始める。
だが、やはりこの男の存在がいまいち思い出せない。幾らクラスメイトだったとしても、大して接点の無い人間もいれば、思春期なら派閥化して男女の距離も生じがち。更に20年ほどの時が加算されれば思い出せない人間がいるのも仕方がないとも言えるであろう。皆が皆、学校ドラマのような和気あいあいの一枚岩という訳ではない。
本当に同級生なのだろうな、と思い始めて些か気持ち的に楽になった桜子だが、全く思い出せないという事は、少なくとも親しかったとは思えない。
卒業アルバムを見れば確実であろうが、正直、どこに埋もれているのかも分からない。
同級生なら比較的気を使わない間柄。
桜子は同級生説とただのバカという直感を信じ、思いきって正直に話す事にした。
「あの……ごめん、上島君って正直ちょっと思い出せないんだけど……下の名前って何だったっけ」
「下野? はっはっは! 僕は“上島”だって!」
「分かってます! だから、上島“何”君だったか教えてくれって言ってるの!」
「何だ、そんな事か! “一彦”だよ! 上島一彦! どう、思い出した!?」
そう言って男は再び上腕二等筋を指差している。
だから、何でそこなのだ。
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