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上島一彦――
可能な限り歩数を譲って何となく聞き覚えも無いではないような気がしないでもない桜子だが、“一彦”という響きには些かモヤモヤとしたものを感じた。
「あ、そうそう! “タバコ”で思い出したけど、僕は“コーヒー”だよ! 覚えてない!?」
「え、コーヒー!? コーヒーって、あの!? 3年2組!?」
「そう! コーヒー! 思い出した!? 良かったあ!」
懸命に頭の中を中学生モードにして記憶を掘り返しまくっていた桜子は、その言葉でようやく鍵を手にする。
確かに“コーヒー”というアダ名には覚えがある。確か由来は……
「でも、何で“コーヒー”だったのか未だによく分からないんだよね! あ、今気付いたけどもしかして! こんなに日焼けしてコーヒー色だったからかな!」
そうではない。記憶の限りでは、“コーヒー”と呼ばれていた彼は当時はむしろ色白で、その違和感も記憶に残る一因だった。
「でもなあ、せっかくボディービル部で鍛えてたっていうのに、インパクトとして弱かったのは何だか悔しいなあ! やっぱり、子供の頃はアダ名の方が記憶に残るのかな!? はっはっは!」
「ボディービル部?」
「そうだよ!」
「どこの?」
「東南東大学さ!」
「いつ?」
「そりゃあ大学時代に決まっているじゃないか! 変な事を言うな、タバコは! はっはっは!」
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