タバコとコーヒー

8/10
前へ
/10ページ
次へ
どちらが変かは一目瞭然であろう。 中学以来疎遠だったというのに、身長はともかくそれ以降での進化を前面に出されて分かる筈がない。 しかも、恐らく本人には間違いないが、性格も変わっている筈である。これだけ濃い人間が記憶に残らないとは思えない。回顧の続きであるが、“コーヒー”と呼ばれていた彼は色白で線も細く、大して自己主張も無い本当に目立たないタイプの人間だった筈で、特に接点がなければ記憶に残らないのも当然とも言える。勿論、それがコンプレックスだったとすればこういう対極的な完成品が出来上がるのも分からないではないが、少なくとも桜子の記憶ではアダ名以外に合致する点が見受けられない。分からなくて当然だったのだ。 何故『コーヒー』だったのか。 前述の通り、上島の色黒は後付け要素なので関係無い。 “上島”という名字が某有名メーカーを連想させるが、これもそうではない。 何の事は無い。これも言葉遊びだったのである。 『一彦』の“一”を残し、あとは片仮名にして『一ヒコ』、それをひっくり返して『コヒー』、それをもじって『コーヒー』、だったのだ。 桜子はその由来を聞いた事があったので、“一彦”の方でかろうじて記憶の網に掛かったものと思われる。 ちなみに、桜子と上島は何気に3年間同じクラスだったが、案の定、殆ど話した事は無い。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加