キラキラ食堂

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京急百貨店の地下に入ると 美味しい香りや甘い香りが漂ってきた。 ショーケースの中のケーキたちは華やかで 真っ赤な苺は輝いて 色とりどりの衣装を纏い 笑顔と注目を浴びてはキラキラと輝いている。 ゆっくりゆったりと流れる甘い空気は 子供の頃に感じていた安心と幸福な時間を呼び戻してくれる。 趣味でお菓子作りをしていた母は ホイップしたふわふわの真っ白い生クリームに つやつや光る苺がたっぷり乗った ほんのり甘いスポンジのホールケーキを作ってくれた。 しんなりシャクシャクした食感のシナモンとバターと カスタードクリームのバニラの香りまで到達すると パリパリと口の周りにパイ生地が飛び散るアップルパイは思い出の味。 「薫ちゃん、お誕生日おめでとう。」 あの頃の母の笑顔が いつの間にか自分の笑顔となって ショーケースで微笑んでいた。 「ケーキも、買おうかな。」 携帯を弄りながらホームで電車を待っていると 携帯越しの汚れたスニーカーが目に入る。 「そろそろ新しい靴を履こう。」 スーツ姿で足元はいつものスニーカーのまま 京急電車に乗り込んで再び携帯画面に集中する。 プッシューと扉が開いた瞬間に 気がつけば扉の外へと一歩踏み出していた。 「あ、降りちゃった。」 赤い車体を横目に っふーと深呼吸のようなため息を吐きながら 肩を回して見上げると 「横浜駅、久しぶりだな。」 ホームに行き交う人々の 1番多い流れになんとなく流されて なんとなく階段を下りてみた。 忙しなく往来する足音 自動ドアが開く度に中から溢れ出す活気を抜けると 遠くで聞こえる犬の鳴き声。 川辺をぶらぶら歩いていると 日常からかけ離れた派手なメイクと衣装の二人組とすれ違う。 「イベントでもあるのかな。」 彼女たちがやって来た方角を見ると 彼女たち以上に視界に引っかかったカラフルな色に引き込まれた。 "キラキラ食堂"の看板が見える。 ちょっと休憩して行こう。 「おかえりなさい!」 店主の明るい掛け声に少し驚いた。
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